森下典子『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』

 天邪鬼なので、「いま話題沸騰」「人気急上昇」「注目度ナンバーワン」なんて宣伝されると、知りたくなくなる。そんなブームに私はなびかないわ、とソッポを向いてしまう。だから文庫本を買うにしても、「映像化作品」だの「ランキング一位」なんて本は買わないか、ブームが過ぎ去ってからの購入になる。

 そんな私だけれども、珍しくブームに乗って購入した文庫がある。それが、森下典子さんの『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』だ。本書はこの秋に映画化されて全国公開していて、主演が黒木華さんと樹木希林さんだ。ついこの間お亡くなりになってしまった樹木希林さんの出演作品だ、と目が止まった。

 文庫にかけられた映画の宣伝の帯の写真が、私を不思議とホッとさせる。どうしてなのだろう? 着物を着ている人を見るのが好きだから? それもあると思う。けれどその理由に付け足すのなら、黒木華さんと樹木希林さんの二人の醸し出す雰囲気がお茶の表紙と一体化していて、とても綺麗で憧れたからだ。

 

「お茶」の授業を受けたことがある。それはこの本で書かれたように大人になってからではなくて、幼稚園児の頃。私の通っていた幼稚園では、週に一回だったか月に一回だったか忘れてしまったのだが、お茶の時間があった。そこで私はお抹茶の飲み方や和菓子の食べ方なんかを教わった。あのとき食べた和菓子が美味しかったことを覚えているし、お抹茶の入ったお椀をくるくると回したことも覚えている。けれどそれがどういうことなのか当時はわからなかったし、いまでは大半のことを忘れてしまった。

 いまの私にとって「お茶」の世界は敷居が高い。礼儀作法に厳しそうだし、手順をきっちり覚えなくてはいけないだろうし、知識や教養は生半端なものじゃいけない気がする。引きこもり気味な私の性格にとって「お茶」は、大人の社交場そのものに感じられるのだ。幼稚園の頃に体験した楽しみからは、遠い世界に思えた。

 

日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』は、そんな大人の社交場に思える「お茶」を長い間習ってきた、著者の体験談だ。「お茶」の世界ってこういうものなんだ、と感じるエピソードもあるし、逆に「え、こういうイベントもあるんだ」という発見もあった。その世界に戸惑いつつも楽しんだり苦悩したりする著者の姿が、私の想像していた「お茶」そのもののようにも思えるし、全く違うようにも思える。

 違うと思えたのは、生きる、ということだ。私にとっての想像の「お茶」は、形式に則って大人の会話を存分に楽しむ社交場であって、それ以上でも以下でもなかった。けれどこの本に書かれているのは、そういう場所だけではない、ということだ。掛け軸を見て何を感じるか、耳を澄まして何を感じるか。活けられた花を見て季節を感じ、出された和菓子で季節を感じ、四季が変わればお茶も変わる。ひとつひとつ体験することで、いまこの時を心から実感する。それが「お茶」なのだ。

 ただ漠然と時間を過ごす、ということに慣れすぎている私にとって、この本に書かれた、生きる、ということは憧れだ。四季折々を大切に過ごすということがどれほどの贅沢で、幸せか。つい天気予報を見てはああだこうだと言うのではなくて、「この時期がやってきた」と喜び準備する余裕を持ちたい。

 そんな気持ちを教えてくれる、素敵な本だ。

 

日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ (新潮文庫)

日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ (新潮文庫)