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森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』

 表紙が好きだから買った、という文庫本がある。もちろん、好きだから即購入とはならずに、文庫本の裏表紙に書かれた簡単な紹介文を確認はするが、それでも一度は手に取るのだ。内容が気に入れば購入し、すぐ読むわけでもなく延々と本棚に積まれ、ふとした拍子に読むのだ。だから思わぬ出会いがあるし、思わぬ発見もある。

 表紙が好きで購入した文庫に、森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』がある。中村佑介さんのイラストが表紙で、帯には羽海野チカさんのコメントがある、角川文庫だ。帯から察するに、森見編集長特集をしていた頃に購入したようだ。オリジナルグッズが当たるキャンペーンをしていたようだが、それには興味がなかったようで、カッティングもされていない綺麗な帯が、丁寧にかかったままなのが、私らしい。

 

 さて、本書は片思いの先輩と可愛らしい黒髪の乙女の恋愛ファンタジーである。と裏表紙の紹介文から察せられるのだが、私はこの紹介文を読んで何も不思議には思わなかっただろう。この文庫本を購入した当時、確か私は森見登美彦さんの小説を読んだことがなかった。ただその風貌は知っていて、「まあ芥川龍之介が現代に蘇ったかのような人。きっと内容は格式高いものなんでしょう」くらいの認識だった。そんなことだから、「そういう方が書く恋愛小説ならば、気難しいものを読むのが苦手な私でも読めるでしょう」と一人合点し、レジに向かったに違いない。

 そう、注目すべきは恋愛ファンタジーの「恋愛」ではなく「ファンタジー」のほうだったのだ。

 夜の先斗町下鴨神社の古市、大学の学園祭と舞台は実在するというのに、そこでは摩訶不思議な出来事ばかり。森見登美彦さんの小説を何一つとして知らずにこの小説を読めば、「えええっ私、普通の恋愛小説を読むのだとばかりに!」と、きっと一人であわあわしつつも世界観に引き込まれていったと想像に難くない。

 そして、そこに書かれている「恋愛」は、旦那さんと恋愛した後だからこそこそばゆく、懐かしく感じるのだ。先輩の一所懸命な外堀を埋める行動に、旦那さんの私に対するささやかな、あまりにもささやか過ぎて逆に訝しむことも多々あったあの行動の数々、をほっこりと思い出す。黒髪の乙女が世界ボーッとする選手権の日本代表になるというその心情を読めば、ああ私もボーッと一日に何度もしたんだっけと懐かしむ。そして、お腹の底が温かくなるのだ。

 

 旦那さんと結婚して三年経った。ずっと本棚に眠ったままで、ついこの間読み終わった『夜は短し歩けよ乙女』。もっと早くに読んでおけば! と後悔する小説があったりするけれど、この小説はいま読めたからこそ、よかったのだと思うのだ。

 

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)