『紅の豚』

 このアニメの何が面白いのだろうと、子供心に思っていた。

 画面いっぱいに飛行機がぶーんぶーんと飛んでいく。なにかしら物語が進展しているのだろうが、大きな変化ではないからよくわからない。でも、その物語を見て父親は面白そうにしている。だからこれは、大人のための映画なのだ。

 私が人生で初めてスタジオジブリ作『紅の豚』を観た感想は、そんなものだった。

 当時私は小学生くらいで、見ていたアニメはもっと子供向けアニメばかりだった。ドラえもん忍たま乱太郎が好きだった。だから、キャラクターたちにはもっと大げさな芝居をしてもらわなければ見ていて楽しくなかったし、ただただ景色が流れるような映像には意味を見いだせなかった。なにより、大人になってからじゃないとわからない、感情の揺らぎに、気づけるはずもなかった。

 当時の私にとって退屈極まりない映画だったが、ひとつだけ、記憶にこびりついたシーンがある。雲の海を飛んでいて、友人たちが空の高い高いところへと行ってしまうシーン。あの、耳鳴りでもしそうな映像表現に、幼いながらも怖さと静けさと悲しさを理解した。

 

 私の旦那さんはオタクである。軍事関係のことにやたら詳しくて、ニュース番組で戦車が映ったり、映画で銃が出てきたり、イベント映像で戦艦が出てきたりしたら、「あれは⚪︎⚪︎だな」だなんて、即効説明してくれる。

 そんな旦那さんなので、『紅の豚』が好きなのかと思ったら、むしろ嫌いだと言われてびっくりした。だってあれ、飛行機バンバン出てくるから、旦那さん的にわくわくしっぱなしだと思っていたのだ。

 嫌いな理由を聞くと、「あれは大衆向けだからダメ。俺は「飛行艇時代」が好きなの」と言うのである。

 ひこうていじだい?

 私の頭の中にはクエスチョンだらけになったが、私が父親の本棚からこっそりくすねた『宮崎駿の雑草ノート』を取り出すと、「これだよこれ!」と指差してくれた。

 そこに書かれた豚さんは、確かに映画の話そのままっぽいけれど、もっとあっさりとした話だった。むしろ、子供のときにこの話そのまま映画になってたら、『紅の豚』が好きな映画ナンバーワンくらいになった、かもしれない。

 

 昨日の金曜ロードショーで久々に『紅の豚』を観た。子供のときには理解できなかった端々が見えてきて、「うん。面白い映画だなぁ」だなんて思った。ただ、やっぱりあの雲の海のシーンは、寂しかった。そんなことをエンディングロールを観ながら感じていたら、となりでやっぱり「これは違うんだよなぁ」だなんて旦那さんがつぶやく。

 いま、宮崎駿監督が映画作成に乗り出している、というニュースを随分と前に観た。もし叶うのなら、私の旦那さんが満足いくような、がっつり趣味に走った映画なんて、観てみたい。理解できないかもしれないけれど。