『父の詫び状』向田邦子

 向田邦子さんのイメージは、ドラマだ。確か自分が小学生か中学生の頃、向田邦子さんの一生をドラマ化した番組を見た。主題歌を歌っていたのが一青窈さんだった。脚本家で小説家、そしてエッセイスト。怖い父親に愛する人の死、そして飛行機事故。その人生・人物像に、とても惹かれたのを覚えている。

 それなのに彼女の書いたドラマを見たり文章を読もうとはしなくて、随分と後になってから手に取った。それが『父の詫び状』だった。

 

 この『父の詫び状』は、向田邦子さんの第一エッセイ集。エッセイを読むなら向田邦子、と評判を聞いていたけれども、読むまではあまり期待していなかった。あまりにも持ち上げられた作品は、実際に触れてみると大したことなくてガッカリするのが常だからだ。だから期待値低いまま、読んだ。

 読み終わった後の、「向田邦子さんすげーっ」感は半端なかった。エッセイってもっと、著者本人のくだらない日々や面白い出来事をつらつら書いてあるだけのものだとずっと思っていたのに、このエッセイは違う。情景が思い浮かんで、さまざまな出来事への感情の動きを一緒に体感できる。時代がいまとは遠く離れてしまったとはいえども、それでもいまと通じるものがある。

 エッセイって、こういうものをいうんだ、と気づかせてくれた一冊だ。私のお気に入りの話は、「ごはん」。食べて生きるってこういうことなんだよなって思わせてくれる話だと、勝手に思っている。

 

 文章の上達には、上手な人の文章の模写からはじめなさい、と何かの本で読んだ。恐れ多くもでも文章上達したい欲には敵わない。向田邦子先生、『父の詫び状』で勉強させていただきます。

 

新装版 父の詫び状 (文春文庫)

新装版 父の詫び状 (文春文庫)